「見えない」をサポートするデザイン—「ひかりの森」

2024年グッドデザイン賞を受賞した、NPO 法人視覚障がい者支援協会・ひかりの森の視覚障がい者就労支援継続B型事業所「ひかりの森」は、(有)ケアリングデザイン一級建築士事務所が1年かけてつくりあげ、2022年4月に開所いたしました。

開所後は見学会を開催して、広く皆様にご紹介してまいりましたが、HPでも詳細をご紹介したいと思います。


●視覚障がい者就労支援継続B型事業所「ひかりの森」とは

視覚障がい者就労支援継続B型事業所「ひかりの森」は、就労が難しい、視覚に障害のある方々が安心して働き、スキルアップして社会参加するためのステップアップ空間です。

加齢により視覚に障害が生じる中途失明の方たちは増加しているものの、その対策は途上にあります。全国にも例を見ない当施設でのデザイン的取り組みは、パイロットワークとして大きな役割を担っています。


●デザインが生まれた背景

現在、国内の視覚障がい者は約300,000人。そのうち全盲は約1割弱で、残りはロービジョン(弱視)で見え方に障害のある方達。高齢者が増えることで、糖尿病、黄斑変性症、緑内障などによる中途失明者が増加していますが、加齢による視覚の衰えは誰にでも訪れます。

超高齢社会では、視覚にトラブルを抱えている方達が安全に暮らせるよう、街にも、建築物にも、デザイン的な配慮が必須です。

当施設でのデザインの目標は、色や光、音や触覚などを駆使して視覚に障害のある方達が安全に利用することができるようにすることでした。当事者の方達といくつもの実験を重ね、わかりやすさを追求。たとえば、色の対比により弱視の方も見えやすい色使い、光の色味による見え方、また天井高を変えることでの音の響き調整、素材選びなど。このような実験を通して得た結果を反映したデザインは、今後の環境設計に役立つと確信しています。


●デザインを実現した経緯と、その成果

当施設では、利用者が介助なしで行動できることを目標としました。

外部では、看板は触れればわかるよう角を丸くした浮文字、外壁は両隣の建物の色と区別できるようブルーグレー、音サイン用のスピーカーをつけ、出勤時に30分間特別に作曲した音を流す、玄関扉の三方枠は白タイルではっきりさせた、などのデザイン上の工夫をしました。その結果、道路から玄関にスムーズにいくことができます。

内部については、ひかり、色、音、香り、触覚、など五感を通して情報を伝える工夫をしました。  

その結果、一人でも安全な移動ができ、スタッフの介助も軽減されました。「とても安心して活動できる空間です」と、利用者から評価いただいています。また木を多用したため、「香り、手触り、音の柔らかさなどから安らぎをもらえる」と好評です。

視覚障害の他の障がい者にも考慮したユニバーサルデザインなので、災害時の緊急避難先として、障がい者や高齢者を受け入れることもできます。

「ひかりの森」外観

タッチ式自動ドアのエントランスを入ると、白杖を置いていただきます。

木の香りから、玄関に入ったことを感じ取れます。室内の壁には、青いガイドラインが高さ80㎝に張り巡らされており、視覚障がい者の方でもひとりで歩行できます。

光、色、音、香り、触覚をつかった誘導をデザインすることで、白杖なしで一人で移動できます。その結果、職員の労力も軽減されました。

階段の踊り場の下を空洞にしたことで、階段歩行時の音が変化するようになっています。


壁や床の色のコントラスト、階段前の凹凸などで、安全に利用者を誘導しています。

作業室は、作業内容に応じてテーブルの配置を変えられます。

車いすが余裕で出入りできるバリアフリーのトイレ。


ひかりの森[仕様]

敷地面積:189.53㎡

生後日質:100.01㎡

床面積:1階 102.27㎡ 2階 102.27㎡

延べ床面積:204.54㎡

主体構造:木造2階建て

プロデューサー:NPO 法人視覚障がい者支援協会・ひかりの森 中村伸一

デザイン:一級建築士事務所 ケアリングデザインアーキテクツ                           

     吉田紗栄子、直町常容子、桑波田謙、正木覺、武者圭、小野由記子

Caring Design Architects

ケアリングデザインアーキテクツは、50代以上の方々や障がいをお持ちの方の住まいに特化して、一戸建て住宅・マンション・高齢者施設などの新築またはリノベーション業務を行っています。 代表 一級建築士 吉田紗栄子